「『あなたの大切な女性に、バレンタインに花束を』か……」 祐麒はその広告の前に立ち止まる。 最近、女子中高生に人気のタレントが薔薇の花束を持って微笑むと言うものだ。 「確かにバレンタインって男からプレゼント送っても良いんだよな」 祐麒の脳裏に恋人であり、現在は同居人でもある二条乃梨子の顔が浮かぶ。 「……やっぱ白薔薇だろうな」 祐麒はポスターから目を外すと、改札へ向かった。 「白薔薇ってありますか?」 「まだありますよ」 店頭で作業していた店員は、奥のケースの中から何種類かの白い薔薇を持って来る。 「ちなみに、ロサ・ギガンティアってどれですか?」 「なかなか通ですね。あー、でも売り切れてないですね。お客さんも、例の広告見てですか?」 「まぁ、ちょっと踊らされてる感じはしますけど、悪くはないなってね……」 「確かに。ん〜、じゃあこれとこれを組み合わせてみては?」 そう言って店員は、何本かの白系の薔薇を組み合わせて祐麒に見せる。 「いい感じでしょ?」 柔らかなクリーム色の中に、真白な色が混ざっているそれは、祐麒もうなずく綺麗さだった。 「いくらになりますか?」 「本当は1800円にラッピングが500円なんだけど、オマケで2000円で」 「これで」 祐麒が代金を渡すと、店員は手早く花束を作って祐麒に渡す。 「ありがとうございます。喜んでもらえると良いですね」 その言葉に、祐麒は「ええ」と返した。
「リコ、プレゼント」 そう言って祐麒くんが差し出したのは、白薔薇の花束だった。 「どうしたの?」 「帰ってくる途中に花屋があって、いい感じだったから買った」 「バレンタインローズだね」 「そういう品種なのか?」 「この花束のこと。白い薔薇の花束を、最愛の人にバレンタインデーに贈るって話があるの」 そう言うと、あたしは祐麒くんの腕にしがみついて、こう告げた。 −祐麒くん、大好きだよ−