「可南子。今日って何の日だっけ?」

喫茶店のテーブルの反対から問い掛ける乃梨子の表情は、面白いことを思いついた時の由乃を思い浮かばせるものだった。

「ホワイトデー。バレンタインデーのお返しをする日」
「そうね。確かにあたしも今朝、祐麒くんからクッキーをもらったわ」
「で、乃梨子は何が言いたいの?」
「実はね、こんなものをとある諜報機関からもらってね」

乃梨子はレポートらしき紙束を可南子に見せる。

「ちょっ、なっ!!」

そこにはバレンタインの日の可南子と、その恋人である松岡由貴の抱き合っている写真がついていた。

「笙子と日出美ね。あとでシメなきゃ……」
「『可南子、俺のアパートの隣りが空いてるんだけど、こないか?』って言われたんだって?」
「そうよ。それがどうしたのよ」
「回答期限は一月後。今日らしいじゃない。返事はしないわけ?」
「……隠してもムダね。正直なところ、迷ってるの」
「例えば?」
「隣同士になったら、今の関係がグダグダになりそうで……」

可南子は空のグラスの氷をストローで突つく。

「大丈夫よ。あたしたちなんて同居してるけど、毎日とかしてないから」
「なに、その明らかにピンクな回答は」
「可南子、あたしが何年親友してると思うの。どうせ隣同士になったら、毎日押しかけていって、お泊りしてしまうとか考えたんでしょうが」
「ムカつくけど当たりよ」
「あのクールビューティーで有名だった細川可南子が、こうも色惚けするとは、恋愛って怖いわね。で、決心はついたの?」
「ついたわよ。散々弄られたからね」
「今日は『決着をつける日』なんだから、きっちりつけてきなさいよ。おばさんにはうちで泊まってるって言っておくから」
「ホント、乃梨子って相変わらずお節介焼きよね。じゃあ、ここの会計はあたしが持つわ」

ヘルメットを持って、可南子は出口へ向かった。


 

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