チンク姉の憂鬱
 
「くそっ」
 チンクは悪態を吐きなが逃げまわる。
 前方に追手の仲間が現れたのを視認したチンクは、廊下に置いてあった金属製の消火器のプレートを掴むと、そこに向かって投げつける。
「うわっ、爆発するぞ。隠れろ」
咄嗟に近くの部屋に飛び込む前方の追手たち。しかし、プレートは爆発せずに廊下を滑って行った。
 チンクはそのまま廊下の角を曲がる。すぐに後方からやってきた追手が廊下をまわるが、そこには誰もいなかった。
「どこへいった。探せ」
 チンクを見失った追手たちは、再び廊下を駆けていく。
 
 
「セイン、助かった」
 チンクはそう言って妹に頭を下げる。
「久々に会ったと思ったら「セイン、潜ってくれ」だから。なぜ追われていたんです」
「わからん。ただ、本能的に捕まったらとんでもないことになるという事だけは解っている。ところでセインはなぜここにいる?」
「ああ、『定期健診』というのですかね。これからマリエル技官のところへ行くところです」
「じゃあ、一緒に連れて行ってくれるか。女史からは私も呼び出されているからな」
「良いですよ」
 そう言うと、セインはチンクを抱きしめて再び床に潜る。
「そう言えば騒ぎで忘れていましたが、今日は非番で?」
「ああ、このところ忙しかったからな。有給の消化とかもあって三連休だ。もちろん緊急事態が起こったら別だがな。私と交代で次はウェンディが休暇だ」
「そう……。久々にウェンディにも会いたいな。さてチンク姉、技官の部屋に着きました」
 そう言うと、セインはチンクを離す。
「ありがとう」
 そう言うとチンクはマリエルの部屋のドアを開き、セインも後に続く。
 次の瞬間、チンクとセインは扉の横に待機していた男たちに確保される。
「離せ。おまえたち」
「くそぉ、ここじゃランブルデトネイターも使えん」
「大人しくしてもらおう。マリエル技官に会わせたら我々が望むものが無くなってしまう」
 暴れるチンクに、捕獲者たちはそう言い放つ。
「マリエル技官は己の欲望のために2人を、いやチンクちゃんの胸をバインバインに改造しようとしてるんだ。そんなのはチンクちゃんじゃない」
自信満々に言う捕獲者たちに、奥で縛られていたマリエルが「胸は乙女の夢です」と反論する。
「なんだ、それは……」
 あまりのバカバカしい話に、チンクとセインは一瞬にして脱力する。
「人の体型を勝手にどうこう言いよって」
 チンクは吐き捨てるように言う。
 
 
「そうやな、人の体型をどうこうしたらあかんな」
 その声が聞こえた次の瞬間、チンクとセインを捕獲していた男たちは魔法弾によって一気にふっ飛ばされる。
「あんなぁ、需要ってのは守るものじゃないんやで。それに作り出すもんでもない。偶然に生まれるから美味しいんやで」
そう言って現れたのは、ジャージ姿のはやてであった。
「初日だから結構辛いんやから、静かにして欲しいわぁ」
 そう言うと、はやてはチンクとセインを立ち上がらせる。
「八神隊長、助かりました」
「いやいや、構わへんよ。とりあえず、大丈夫やな」
「はい。それにしても、さっきの発言でマリエル技官も信用できなくなってしまいましたね」
「いやいや、安心しい。チンクの胸はそのままが良いんやからってことで二人とも同意してるから」
「「はい?」」
「セイン、チンクがシグナムやフェイトちゃんみたいにバインバインなのを想像してみい」
「……あり得ないです」
「やろ?だからチンクは永遠にこの体型が良いんや」
 二人の言葉に、プチプチとチンクの堪忍袋の緒が切れかけ始める。
「大丈夫や、うちのゴッドハンドである程度までは大きいしたるから」
 
ブチっ
 
「人が気にしてることを話題にするな〜〜〜〜〜〜〜〜」
 そう絶叫すると、チンクはスティンガーを床に放って部屋を出てゆく。
「では、さようなら」
 そう言ってセインもディープダイバーで壁を通り抜けてゆく。
「ちょっ、助けたのにこの扱いなんかいなぁぁぁぁ」
はやての絶叫の直後、凄まじい轟音と爆発にマリエルの部屋は包まれた。
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