時空管理局本局のとある一画にある、黄色い看板のラーメン屋。
並盛りが他の店の大盛りに等しいこの店は、コアなファンを獲得してにぎわっていた。
「今日は大盛りチャーシュー・全部増しを制覇するぞー!!」
「「おー!!」」
その店の前で、スバルとその部下たちは声を上げて盛り上がる。ちなみに大盛りチャーシュー全部増しとはこの店の最大サイズである。
それを見て、フロアの店員が厨房に連絡する。
「大将、ナカジマ妹がきました」
「あぁ、聞こえたよ。おい、『アレ』持って来い」
そう言うと、洗い場の人間が奥の棚から通常の何倍も大きさがあるラーメンドンブリを持って来る。
「さすがクイントの娘だ。これを使う日が来るとはな。おい、少し離れるから代われ」
「おぅ、ナカジマ妹。元気そうだな」
列の先頭になったところで、スバルに店の大将が声を掛ける。
「大将、ナカジマ妹じゃなくてスバルです」
「まぁ、コマケェ事は気にすんな。さて、今日は盛りチャーの全増なんてケチな事は言わねぇ。お前さんにスペシャルなメニューを出してやる。拒否権はないからな」
大将の言葉に、古くからの常連たちが一斉にざわつく。
「過去、こいつを食い切ったヤツは3人。1人は陸送隊の『ラーメン大食い選手権』チャンプのリルカ・オーセ、もう1人はゼスト、そして最後の一人はお前の母親、クイント・ナカジマだ。ちなみに、教導隊のヴィータは挑んで敗れたからな」
「望むところです」
スバルは握り拳を作りながらそれに応じた。
豚の背油で満ちたドンブリに、次々と麺が入れられていき、続いてこの店で出される具材がすべてその上に盛られる。
ドロリとした豚骨スープを注いで、最後に海苔をのせて完成。
その量、ノーマルの約12倍である。
判りやすく説明すると、麺だけで3キロ近く、スープが1リットルオーバーである。
出来上がったものを2人掛かりでカウンターで待つスバルの前に運ぶ。
「うわぁ、凄いや」
「どうだ、ナカジマ妹」
大将の言葉にスバルはうなずきながらも、速く目の前のラーメンを食べたくて仕方なかった。
「こいつを30分で食べ切ったら、次から全部半額にしてやる」
その言葉に周囲からおぉと言う声が漏れる。
「それじゃあ、はじめっ!!」
その言葉とともに、スバルはドンブリに手をつけた。
結果として、勝負は持ち越しとなった。
残り15分になったところで、アラートが掛かったのだ。
『湾岸地区でレベルAの災害発生。繰り返す。湾岸……』
残り半分になっていたドンブリを恨めしそうにスバルは見つめる。
「仕方ない。勝負は帰って来てからだ。さっさと鎮圧して来い。」
「はい!!」
大将の言葉に、スバルは部下たちと駆け出す。
その後ろ姿を見ながら、大将は数年前の光景を思い出していた。
「そういや、クイントも一回目はお預けになったんだったな」
「移動中に食べ切るから鍋貸して」と喚くクイントを、ゼストとメガーヌが無理やり引っ張って出動して行った事を思い出しながら、大将はスタッフに檄を飛ばす。
「さぁ、やつらが頑張っているんだから俺たちも頑張るぞ」