縁−ENISI− 

 

 
 
 
「さーさーのーはーさーらさらー」
 満天の星空を見上げて、歌詞のようにさらりと瞳子は歌う。
「可南子。こんな場所、よく知ってたわね」
「前にツーリングに出た帰りに、たまたま見つけてね」
 瞳子の愛車である旧式のミニに寄り掛かりながら、乃梨子と可南子は話す。
「都内なのに、星がすごく綺麗ね」
「都心部から少し離れてるからね」
「ところで、急に誘っておいてなんですが、2人とも予定は良かったの?」
 1曲歌い終えた瞳子が、親友に尋ねる。
「あたしは祐麒くんとご飯食べに行くだけだったし、祐麒くんも急な用事で出て行ったから」
「あたしは由貴の晩御飯作るだけだったから」
「そう。ならよかったわ」
 2人と同じように、瞳子も車に寄り掛かる。
「そう言えば、こうして3人一緒に出かけるのって久々ね」
「そうね。お正月は瞳子が忙しかったし、春先はあたしが遠征とかでダメだったし、GWは乃梨子が祐麒さんと
 一緒に祐巳さまと祥子さまに拉致されてイギリス行ってたから」
「あの時は本当に怖かったんだから」
「拉致現場に居ましたけど、祥子お姉さまの車に押し込められるまで、ものの10秒ほどでしたものね」
「いきなり『助けて〜イギリスへ拉致られる〜』って掛かってきた時はびっくりしたわよ。その後ろで祐麒さんが
 『姉弟の縁を切ってやる!!』って叫んでたから、あえて放置したけど」
「姉弟喧嘩に触れちゃ、ケガしますから」
「というより、お姉ちゃんに逆らえないだけでしょうが」
 ジト目で乃梨子に睨まれた2人は、白々しく口笛を吹いて誤魔化そうとした。
「まぁ、過ぎた事だから良いわ。とりあえず、今はこれだけの星空を堪能しなくちゃね」
 小さく溜め息をついてから、乃梨子は空を見上げた。
 
 
「……で?」
 呆れた表情で、祐麒は座敷の反対に居る小林に尋ねた。
「いや、『で?』って聞かれても、そうなんだとしか答えられないんだが……」
「小林、ユキチが聞きたいのは、もっと踏み込んだ話だ」
 それまで祐麒の隣で黙って小林の話を聞いていた優が、小林に祐麒の言いたい事の補足をする。
「その発言如何によっては、俺はおまえと縁を切る」
「僕もだ」
 100%冗談のない2人の顔に、小林はゴクリとつばを飲み込むと、自身も真剣な表情で話し出す。
「学生だし、まだまだ人として未熟だけど、俺はさなえちゃんと、これから産まれてくる俺とさなえちゃんとの子供を守りたい。
 さなえちゃんが俺を必要としてくれる限り死ぬまでずっと」
 小林の強い想いのこもった言葉を聞いて、2人は大きく息を吐き出す。
「縁は切らなくて済みそうだな」
「まぁ、僕たちが切らなくても、小林が相手の親にショットガンで撃たれて切れるかもしれないけど」
「不吉な事、言わないで……」
 がくりと、小林はうなだれる。
「まぁ、織姫と彦星じゃないんだから、話し合えば良いさ」
 ちょうど1年前に、瞳子を将来の伴侶にすると決心した優の言葉あとに、祐巳たちの策略によって、乃梨子と同棲生活をする祐麒が続ける。
「俺たちは大切な人が側に居てくれるんだから」



 

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