「強くなりたいか?」
 その問いに、床に転がったままの状態で私はうなづいた。
「強くなりたい、みんなを守れるようになりたいというのなら、きみは強くなれる」
そう言って、その人は手にした小太刀を鞘に戻した。
そこで私の記憶は途切れた。
 
目が覚めた時、私は親友のベッドに寝かされていた。
一瞬、あれは夢だったのじゃないかと思ったが、体中を走る痛みが『あれは現実だ』と私に教えてくれていた。
 シグナムやヴィータとの模擬戦を重ねる中、私は自分の戦いに行き詰まりを感じるようになっていた。
 成長するにつれて、自分の速度が遅くなっているように感じ、実際にシグナムとの手合わせでは競り合いは
互角になったものの、昔は入った一撃が入らなくなってきていた。
 そのことをエイミィに話したところ、それを聞いた美由希さんが恭也さんに話したらしい。
そして私 ― フェイト・T・ハラオウン― は高町家の道場で恭也さんと手合わせを行い、そして放たれた御神流の奥義によって打ちのめされた。
 
「あ、フェイトちゃん、気がついた?」
 私が体を起こすと、ちょうど部屋になのはが入ってきた。
「うん。心配させちゃったね」
「ちょっとね。お兄ちゃんも八景は使ってなかったから、打撲とかはあるかもって思ってたけど」
「やっぱり恭也さんは次元が違うよ。魔法なしであの速さなんだから」
そう言いながら、私は恭也さんの動きを思い出す。
 
無駄のない構え
 
相手のスキを作り出す動き
 
小さなスキを己の持つ技で確実に突く攻撃。
 
(うん、あれなら十分に私の戦いに活かせれる)
ベットから起きると、私はなのはと一緒にリビングへと降りていく。
 
数日後
 
「すみません、無理を言って」
私の頭を下げると、恭也さんは小さく笑って返す。
「いや、構わないさ。それより、俺と手合わせしたい理由があるんだろ。なのはには秘密で」
「はい。バルディッシュ」
私の呼びかけに、バルディッシュはバリアジャケットを展開しつつ、自らも新しい姿を見せる。
「二刀流か」
「はい。あの後、シグナムやヴィータと何度も手合わせをしてもらったり、いろいろ試した中で編み出しました」
これまでより少し小さなそれをみて、恭也さんは小太刀を抜いて構える。
「そうか。……では、手合わせを願おうか」
「受けて立ちます」
 そう言って、私たちは打ち合った。
 
 結果から言うと、私は負けた。
でも、限りなく勝ちに近い負けだったと思う。
 互いに決定打を与えれないまま時間が流れ、一旦大きく間合いをとる。
「無駄のない動きに、小さなスキを着実に突く攻撃。うちのバカ弟子にもみならって欲しいな」
「そんなに厳しいと美由希さんがいじけますよ」
「これぐらい厳しくないと、そのうちなのはにも負けるからな。さて、そろそろケリをつけようか」
「はい」
 
 低い体勢から間合いに飛び込んだ私の斬撃を、恭也さんは打ち返すことで防ぎ、眼にも止まらぬ速さで左足を振り抜いた。
 それを認識しながら反応できず、背中にその一撃を食らい、壁際まで飛ばされる。
 壁ギリギリでどうにか体を翻して着地するも、次の瞬間には恭也さんが小太刀を突きつけていた。
「悔しいですが、負けですね」
「惜しかったがな。蹴りが入らなければ、俺が負けていた」
そういうと、恭也さんは私の頭を撫でる。
「この数日で壁を超えれたみたいだな」
「はい。あまり気絶しすぎるとなのはにも悪いですし、なのはの事ですから、前の時も恭也さんに怒ったんですよね?」
「さすがに親友なだけはあるな。まぁ、そうやって友情にアツいのがあいつの良いところでもあるんだがな」
「そうですね。優しい心の持ち主ですよね。だから、私の心は強くいられるんです」
「フェイト。一つアドバイスするならば、この形は防御力に乏しいから、相手の攻撃は避けるようにしろ」
「はい。そうするつもりです」
私の答えを聞くと、恭也さんはにこりと微笑んで道場を後にした。
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