2・13 20:08
「ゆっくり焦らずにね」
桃子の言葉に、なのはとフェイトは慎重に生地を練っていく。
「そうそう」
二人のボウルの中を確認して、桃子は泡立て器でチョコレートクリームを作って
いるエイミィの進行具合を確認をする。
「さすがエイミィちゃん、いい感じね。あえて言うなら、もう少し混ぜるスピー
ドを落として良いわよ。早過ぎても分離しちゃうから」
「あっ、はい」
桃子の言葉に、エイミィは泡立て器をまわす手を少しゆっくりにした。
「お母さん、クッキー焼けたよ」
エイミィの様子を確認すると、桃子はオーブンから取り出したプレートを棚に乗
せている美由希のもとへ向かった。
エイミィが最後の皮にクリームを詰め込むと、残りの3人は拍手をする。
「みんな、お疲れ様」
ジュースの入ったグラスをトレーに載せて、桃子がキッチンに戻って来る。
「あたしの場合はいつもやってる作業だけど、自分のために作ってると思うと、
なんとなく肩に力が入っちゃうね」
「確かに。わたしもたまにお手伝いしてるけど、自然と力が入っちゃうもん」
高町姉妹の言葉に、ハラオウン姉妹もうなづく。
「じゃあ、各自の分を分けようか」
桃子の言葉を合図に、4人はボックスに自分立ちがつくったシュークリームを詰
め込む作業を始めた。
2・14
アースラの艦長室のベッドでクロノは失神していた。
寝ているのでは無い。失神である。
10時間を超える会議が3つ、その間に書類の決済が600部以上、それをぶっ
通しでこなしてつい5分前にすべてが終わったところで、部屋に入るなりベッド
に倒れこんだのだ。
そんな部屋にやって来たのはエイミィとフェイトである。
「見事な死顔ね」
「エイミィ、生きてるから一応……」
苦笑しながらフェイトは突っ込む。
「もー、ちったー凛々しくなったなぁって思ったけど、こういうところは昔のま
まなんだよね」
そう言いながらエイミィはクロノに毛布をかける。
「提督になると、事件に関わってる方が仕事の量は減るから。お兄ちゃんの場合
、ロストロギア関連がメインだから、最近はあまり事件が回って来てないみたい
だし」
「あたしとしては、たまにはゆっくりして欲しいんだけどね」
エイミィの言葉に、フェイトもうなづく。
「起きそうにないから、冷蔵庫に入れておこうか」
「うん」
二人はクロノが気付くようにメッセージを残すと、艦長室を出て行く。
「ねぇ、エイミィ……」
艦僑に向けて通路を歩き出してすぐ、フェイトがエイミィに呼び掛ける。
「なに、フェイトちゃん」
「私、エイミィが本当のお姉ちゃんになってくれて嬉しいよ」
突然の告白に、エイミィはくすぐったそうな表情をした後、
「あたしこそ、フェイトちゃんが妹になってくれて嬉しいよ」
と、同じぐらいの身長になり始めたフェイトの肩を抱き寄せる。
「堅物の兄とこんな姉だけどよろしくね。……まぁ、まだ入籍してないんだけど
ね。旦那があんな状態だから」
「フフフッ……」
そうやって笑い合う二人の姿は、紛れもない姉妹の姿だった。
「ユーノくん。いま大丈夫?」
「なに、なのは」
無限書庫の一角に居たユーノは、久々のなのはの訪問にも、落ち着いて対応して
いる。
「いつも頑張ってるユーノ君へプレゼント」
なのはは手にしていたバレンタイン仕様の翠屋のボックスを手渡す。
「バレンタインなんだけど、毎年チョコだとつまらないから、今年はお母さんに
教えてもらいながら、フェイトちゃんやエイミィさんたちと合同でショコラシュ
ーを作ったんだ」
「ありがとう、なのは。ここにいると、そういうイベント事ってスルーしちゃう
から」
そう言いながら、ユーノはボックスからシュークリームを一つ取り出す。
「じゃあ、いただくよ」
パクリとシュークリームにかぶりつくユーノを、なのはは見つめる。
「美味しいよ、なのは。甘過ぎず、ショコラもぐどくないし。翠屋の、桃子さん
が作ったのと同じか、それ以上に美味しいよ」
ユーノの言葉に、なのはは小さくガッツポーズをとる。
「ありがとう。なのは」
そう言うとユーノは、なのはに近付き、
「えっ」
驚くなのはの左の頬にキスをした。
「ホワイトデーにお返しが出来ない可能性が高いから」
悪びれず言うユーノに、なのはは頬を膨らませて言う。
「そんなのじゃあ、許してあげないもん」
そう言うと、なのはは自分の唇を指で触れて、目を閉じる。
ユーノは小さく息を吐くと、その唇に自分の唇を重ねた。
「恭ちゃん」
「なんだ、美由希」
リビングでくつろいでいた恭也に、美由希が声をかける。
「今日、何の日か知ってる?」
「……薬局の特売日か?」
「違うよ。今日は2月14日、バレンタインだよ」
「あぁ、そう言えば店の方でもコーナーを作ってたな」
「と言うわけで、私から恭ちゃんへプレゼント」
その言葉に、恭也は一瞬身構えるが、翠屋のボックスを見て、警戒を緩める。
「これ、あたしたちが作ったんだ」
その一言で恭也は再び警戒を強める。
「……一応、生地製造はなのはやフェイトちゃん、クリームはエイミィが作って
、あたしは焼いただけだから」
何を言いたいか察した美由希は、屈辱に耐えながら説明する。
「じゃあ、有り難くもらおう」
それを聞いて、恭也は美由希からボックスを受けとる。
その日の午後、海鳴中央病院に担ぎ込まれる黒い服装の青年がいた。